メール誤送信の原因を踏まえ、企業・組織が向き合うべき課題とは?

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従業員の不注意による情報漏えいが後を絶たない。中でも、メールの誤送信に起因するものが増加傾向にあり、企業・組織にとっては無視できないリスクと言ってよいだろう。この記事では、改めてメールの誤送信が「なぜ起こるのか」を考察しつつ、原因を踏まえた上でどのような対策を講じるべきかを解説する。

メール誤送信の原因を踏まえ、企業・組織が向き合うべき課題とは?

増加するメール誤送信とそのリスク

近年、企業における情報漏えい事故の要因として「メール誤送信」が改めて注目されている。企業のDXやリモートワークの普及に伴い、社内ネットワークの境界が不明瞭になったことで、そのリスクはこれまで以上に顕著となっている。IPAが2025年に発表した「10大脅威(組織編)」では、従業員の不注意による情報漏えいが10位にランクインし、組織における深刻な脅威として位置づけられている。2024年のJIPDECによる調査でも、誤送信に起因するインシデントが増加傾向にあると報告されている。

特に中小・中堅企業では、業務スピードや効率の向上が優先される一方で、十分なルール整備や情報セキュリティ教育が後手に回りがちになるという課題がある。多くのメール誤送信は、たった一度のヒューマンエラーに端を発するが、その背後には業務フローの不備や、確認プロセスの欠如といった組織的な要因、さらにはシステム的な課題が複雑に絡み合っている。

メール誤送信のリスクで代表的なものは「情報漏えい」だろう。個人情報を筆頭に、取引先リストや設計データ、契約書、見積書といった機密情報が誤って外部に流出した場合、それぞれのケースで企業・組織は直接的、間接的に大きなダメージを負いかねない。顧客や取引先からの信頼失墜、損害賠償請求、行政処分など、経営に及ぼす影響は大きくなりがちだ。さらに、SNSやニュースでの報道により、社会的な信用に回復困難なダメージを残す恐れもあるため、企業にとって事前の対策がますます重要となっている。

なぜメール誤送信はなくならないのか

メールがビジネスコミュニケーションの主要ツールとなって久しい。企業間の取引、顧客対応、官公庁や外部パートナーとのやり取りなど、あらゆる場面でメールは欠かせない存在となっている。近年、ビジネスチャットやコラボレーションツールの台頭により、社内コミュニケーションの在り方は大きく変わりつつあるものの、対外的な連絡や文書送付の手段として、メールを使い続けている企業・組織は依然として多い。

メールは外部への情報伝達の手段として使われるという特性ゆえに、情報漏えいにつながりやすい宿命にある。特に、送信先を誤る、添付ファイルを間違えるといったミスは、即座に機密情報の外部流出という重大な事故に直結してしまう可能性がある。しかも、一度送信してしまえば、デジタルデータの特性上、取り消しはほぼ不可能であることも、リスクを一層高める要因となっている。

企業におけるDXの進展に伴い、デジタルでのコミュニケーションの在り方も大きく変化している。テレワークやハイブリッドワークの広がりにより、従業員一人ひとりが複数のデバイス、複数のツールを駆使して業務を行う時代となった。複数のビジネスチャットを利用し、さらにはメールソフトを並行して使う、といったことも珍しくない。

こうした状況では、ツールごとの性質やリスクを十分に意識しないまま運用されるケースも出てくる。チャットを利用するのと同じような心構えでメールを使ってしまい、確認不足のまま送信ボタンを押してしまった結果として、メール誤送信を引き起こすようなケースも見聞きする。メール誤送信の要因について、以下大きく4つに分類して説明する。

1)ヒューマンエラー

従業員の操作ミスが要因となるメール誤送信について説明する。

・宛先の入力や選択のミス
メール誤送信の典型例が宛先の入力や選択のミスだ。アドレスの手入力時のタイプミスや、オートコンプリート機能での選択間違いが発生しやすい。特に、似たような名称の取引先や担当者を誤って選んでしまうケースが後を絶たない。

・Bcc/CC/Toの使い分けのミス
Bcc、Cc、Toの使い分けを誤ると、意図しない相手に意図しない情報開示の恐れがある。例えば、Bccで送るべき一斉送信メールをCcで送ってしまうと、全員にほかの受信者のアドレスが公開されて、個人情報の漏えいとなり、信頼の低下を招く、あるいは苦情につながることもある。

・添付ファイル選択のミス
添付ファイルの誤選択や添付漏れも誤送信の要因だ。本来送るべき資料とは異なるファイルを添付したり、下書き段階のファイル、社内資料を誤って送ってしまったりするケースが見られる。ファイル名がほとんど同じである別ファイルを、本来送付すべき宛先ではないところへ送付してしまうといった、少しの注意力があれば防げたケースも後を絶たない。

・複数メールの同時作成によるミス
多忙な業務の中で複数のメールを同時並行で作成すると、注意力が分散し、宛先や本文、添付ファイルの確認が疎かになりやすい。結果、異なるメールの内容や添付資料を混同するミスが発生し、誤送信のリスクが高まる。

・メール再利用によるミス
過去のメールをテンプレート代わりに再利用する場合、宛先や本文、添付ファイルの更新漏れが起きやすい。特に宛先リストの修正忘れや、前回送信時の情報がそのままの状態で送信されると、意図しない情報流出の原因となる。

2)心理的な要因

心理的な要因も、メール誤送信の要因になり得る。代表的なものを説明する。

・業務過多による注意力低下
業務量が過剰になると、従業員の集中力や注意力が低下しやすくなる。特に複数のタスクや案件を同時進行で抱える状況では、メール送信時の基本的な確認作業が疎かになり、誤送信リスクが高まる。

・締め切り・プレッシャー・焦りによる確認不足
納期や上司・顧客からの強いプレッシャーにより、従業員が焦りを感じると、メール送信前の確認作業を省略しがちになる。締め切り直前や緊急対応時には「とにかく早く送らなければ」という心理が働き、宛先や添付ファイルの確認が不十分になることがある。

・膨大な量のメール送付が日常化することによる注意力散漫化
日常的に膨大な量のメールを送信する業務スタイルでは、一つ一つの送信に対する緊張感や慎重さが失われがちだ。「ルーティン業務」という意識が強まると、確認作業も形式的・流れ作業化し、誤送信のリスクが高まる。

3)組織的な要因

会社の組織的な問題が、メール誤送信の要因となる例を説明する。

・社内ルール、チェック機能の不徹底
社内ルールやチェック機能があっても、運用が徹底されず形骸化してしまうと、従業員は確認の重要性を軽視しがちになる。形式だけの確認手順では心理的な緊張感が薄れ、誤送信リスクが高まる。

・メール送付に関する教育・研修の不足
メール誤送信のリスクや具体的な防止策を学ぶ機会が少ないと、従業員は正しい操作や確認手順の重要性を十分に理解できず、形だけの確認や、意識の低い運用になりがちだ。

・危機管理意識の欠如
なぜその行為が危険なのか、誤送信による影響がどれほど重大なのかという背景の理解が不十分だと、確認作業がなおざりになりかねない。危機管理意識の欠如は「これくらい大丈夫だろう」という油断を生み、結果として重大な誤送信を招く。

・企業文化/組織風土によるプレッシャー
「ミスを言い出しづらい」、「確認を省略するのが当たり前」といった企業文化や組織風土が、心理的プレッシャーとなり、誤送信リスクを高める。また、ミスの報告がためらわれるような職場環境では、早期対応や是正の機会を失いやすい。

・経営層・管理者の意識と姿勢が組織全体に影響
経営層や管理者が情報セキュリティの重要性を軽視していると、その姿勢は組織全体に伝わり、従業員の意識も低下することになる。

4)システム的な要因

最後に挙げるのは、システム的な要因である。メールソフトなどの設定不備や仕様を正しく理解していないことが要因となり得る。

・オートコンプリート機能利用時の選択ミス
オートコンプリート機能は、過去の送信履歴やアドレス帳から候補のメールアドレスを自動表示する便利な機能だが、類似アドレスや社内外で同姓同名、あるいは近似する氏名のメールアドレスを誤って選んでしまうリスクがある。

・メールソフトの設定ミスやUIの問題
メールソフトの設定や仕様が直感的でない場合、誤操作を招きやすい。例えば、標準設定ではBccが表示されない、あるいはCcとBccの欄が視認しづらいユーザーインターフェース(UI)などの場合、送信先の間違いを誘発することがある。

・異なるデバイス(パソコン、スマホ)を利用することでの操作ミス
パソコンとスマホではメール画面のUIや操作性が異なり、誤送信リスクが高まる。例えば、スマホの小さな画面では宛先や添付ファイルを一覧することが難しく、タップミスや確認漏れを起こしやすい。

企業・組織が取り組むべき課題と対策の方向性

メール誤送信は従業員が引き起こすものであるが、それは結果でしかない。先述の要因を見てもわかるように、その背景にある、企業・組織の構造・仕組み・文化がもたらしたものであることを課題として認識し、対策に取り組む必要があるだろう。

1)メール送付に関する教育の徹底

メールの誤送信は、従業員の知識不足に起因することが多いため、メール送付に関する教育の徹底が重要である。

・メール使用時に生じやすいミスを防ぐための教育
宛先選択ミス、添付ファイルの間違い、Bcc/Ccの誤使用など、メール使用時に生じやすい具体的なミスの例示とその防止策を教育することが重要だ。実際の送信画面を見せながら操作のポイントや確認手順を教えることで、従業員の意識とスキルが向上し、ミスの発生率を下げる効果が期待できる。

・メール誤送信が引き起こすリスク、それに伴う損害を周知
メール誤送信が単なる操作ミスにとどまらず、情報漏えいや顧客からの信用失墜、賠償責任といった重大な損害につながることを周知するのが大切だ。実例を交え、リスクの深刻さを理解させることで、従業員それぞれの危機意識の醸成と確認行動の徹底を促すことができる。

・ダブルチェック、習慣化によるミス低減効果を啓蒙
メール送信前に宛先や添付ファイルをダブルチェックする習慣の重要性を啓蒙することは、誤送信防止の基本だ。「確認は時間の浪費ではなく、リスク低減の最も効果的な方法である」と伝え、実践を促すことが大切だ。組織として確認の徹底を求める風土づくりも合わせて行う必要がある。

・メールに関するケーススタディ、最新事例の共有
過去の誤送信事例や他社・自社でのインシデントをケーススタディとして共有することで、従業員のリスクに対する理解を深めることができる。最新の事例やニュースを取り上げ、なぜミスが起きたのか、どのような影響があったのかを考えさせることで、実効性の高い教育と行動変容が期待できる。

2)社内ルールの整備

従業員に対する教育と併せて、メールの誤送信を減らすための社内ルールを整備・周知させることも大切だ。

・メールソフト利用のルール策定
誤送信リスクを減らすには、メールソフトの利用ルールを明確化することが重要だ。例えば、外部送信時のBcc必須、宛先・添付ファイル確認のチェックリスト利用、外部ストレージを利用してファイル転送を行う際のルール設定の義務化などを定め、全員に周知・徹底させる。統一ルールによって確認行動の標準化が促され、属人的な判断によるミスを防ぐことができる。

・重要メール送付時のチェック体制構築
機密情報や個人情報を含む重要メールについては、送信前に第三者によるダブルチェックを義務づけるルール整備が必要だ。誰が、どのタイミングで、どの項目を確認するかを具体的に定めることで、確認作業の実効性を高める。

・誤送信発生時の対応プロセス策定
誤送信が発生した場合の初動対応プロセスを明文化し、迅速かつ的確な対応を徹底することが求められる。例えば、誤送信先への連絡、関係部署・上司への報告、顧客や取引先への謝罪・説明の流れをあらかじめ定めておくことで、被害の最小化・拡大を防ぐ。

3)メールソフト/システムの設定見直し

メールソフト/システムの設定が適切であるか、見直すことも重要だ。例えば、メールソフトに搭載されている誤送信防止機能が有効にされているかも確認しておきたい。

・誤送信防止機能の活用
メールソフトやゲートウェイ製品が備える誤送信防止機能を積極的に活用することは、組織的リスクの低減に直結する。例えば、送信前の確認ダイアログの表示、外部宛先への送信時にアラートを発出、送信保留機能などが挙げられる。こうした設定を組織標準にし、全員が一律で利用することでヒューマンエラーの発生低下をシステム的に補う体制を構築できる。

4)セキュリティソリューションの活用

上記の対策に加えて、メールの誤送信を防ぐためのセキュリティソリューションを導入することで、さらにメール誤送信のリスクを減らすことができる。代表的なセキュリティソリューションを紹介する。

・メールセキュリティソリューションの導入
メール誤送信対策として、GUARDIANWALL Mailセキュリティに代表されるメールセキュリティソリューションを導入することが有効だ。GUARDIANWALL Mailセキュリティには、送付先やメール本文・添付ファイルの内容を柔軟に検査・検出するフィルタリング機能や送信前段階での確認機能、そして上長による送信承認機能があり、意図しない外部送信を未然に防ぐことができる。

送信承認機能は、重要なメールだけ上長の承認を得るように設定することも可能であり、上長に過度な負荷をかけずに誤送信を防止できる。さらに、添付ファイルを外部ストレージに自動的にアップロードしてダウンロードのリンクを発行する機能や一括メール送信を行う際に自動的に宛先をBccに変換する機能も備えることで、情報漏えいリスクをシステム的に抑制できる。

ヒューマンエラーは完全にはなくせないという前提に立ち、不測の事態への備えとしてこうしたソリューションを検討・導入しておくことが望ましいだろう。

経営課題として取り組むべきメール誤送信対策

先述したように、人間であれば誰しも、ヒューマンエラーは起こし得るものと考えねばならない。その上で、ヒューマンエラーを最小化するために、従業員一人ひとりに「自分事化」させるだけでなく、仕組みやツールによるリスクの軽減に加えて、実際に誤送信が発生した場合の被害を最小化するための対策が求められる。

また、些細なミスも許容されない、常に業務の締め切りに追われている、といったような業務上の過度なプレッシャーがヒューマンエラーを引き起こすなど、組織的な課題も存在する。企業としてはまず、教育の徹底や社内ルールの整備、メール設定の見直しなどを行うべきだが、万一に備えて、セキュリティソリューションの利活用にも目を向けたいところだ。

加えて、セキュリティの文脈では「未然の警告」とも言える「ヒヤリ・ハット」を共有する組織風土の醸成にも目を向けたい。そのためには、職場の心理的安全性が求められる。自律的にミスや失敗を共有し合い、それを糧に以降の行動を改善していき、さらにはナレッジ化していくことができれば、その企業・組織のレジリエンスは高まることになるはずだ。メール誤送信だけでなく、セキュリティ全般において、こうした風土の醸成は企業・組織の追い風となってくれることだろう。

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メールの誤送信対策に

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