2023年7月・8月 マルウェアレポート

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7月と8月の概況

2023年7月(7月1日~7月31日)と8月(8月1日~8月31日)にESET製品が国内で検出したマルウェアの検出数の推移は、以下のとおりです。

グラフ1:国内マルウェア検出数の推移(2023年3月の全検出数を100%として比較)

国内マルウェア検出数*1の推移
(2023年3月の全検出数を100%として比較)

*1 検出数にはPUA (Potentially Unwanted/Unsafe Application; 必ずしも悪意があるとは限らないが、コンピューターのパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があるアプリケーション)を含めています。

2023年7月と8月の国内マルウェア検出数は、2023年6月と比較して減少しました。検出されたマルウェアの内訳は以下のとおりです。

国内マルウェア検出数*2上位(2023年7月・8月)

順位 マルウェア名 割合 種別
1 JS/Adware.Agent 34.7% アドウェア
2 HTML/Phishing.Agent 11.2% メールに添付された不正なHTMLファイル
3 DOC/Fraud 8.8% 詐欺サイトのリンクが埋め込まれたDOCファイル
4 JS/Adware.TerraClicks 8.2% アドウェア
5 JS/Adware.Sculinst 3.6% アドウェア
6 HTML/Fraud 2.3% 詐欺サイトのリンクが埋め込まれたHTMLファイル
7 JS/Agent 2.2% 不正なJavaScriptの汎用検出名
8 MSIL/TrojanDownloader.Agent 1.5% ダウンローダー
9 Win32/Exploit.CVE-2017-11882 1.3% 脆弱性を悪用するマルウェア
10 HTML/Phishing 1.3% 詐欺を目的とした不正なHTMLファイル

*2 本表にはPUAを含めていません。

▼各月の内訳をご覧になりたい方は、こちらをクリックしてください。

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国内マルウェア検出数*2上位(2023年7月)

順位 マルウェア名 割合 種別
1 JS/Adware.Agent 36.2% アドウェア
2 DOC/Fraud 11.9% 詐欺サイトのリンクが埋め込まれたDOCファイル
3 HTML/Phishing.Agent 9.5% メールに添付された不正なHTMLファイル
4 JS/Adware.TerraClicks 7.9% アドウェア
5 HTML/Fraud 3.2% 詐欺サイトのリンクが埋め込まれたHTMLファイル
6 JS/Adware.Sculinst 2.1% アドウェア
7 Win32/Exploit.CVE-2017-11882 1.4% 脆弱性を悪用するマルウェア
8 JS/Agent 1.3% 不正なJavaScriptの汎用検出名
9 MSIL/TrojanDownloader.Agent 1.0% ダウンローダー
10 HTML/Phishing 1.0% 詐欺を目的とした不正なHTMLファイル

国内マルウェア検出数*2上位(2023年8月)

順位 マルウェア名 割合 種別
1 JS/Adware.Agent 33.2% アドウェア
2 HTML/Phishing.Agent 12.8% メールに添付された不正なHTMLファイル
3 JS/Adware.TerraClicks 8.5% アドウェア
4 DOC/Fraud 5.7% 詐欺サイトのリンクが埋め込まれたDOCファイル
5 JS/Adware.Sculinst 5.0% アドウェア
6 JS/Agent 3.2% 不正なJavaScriptの汎用検出名
7 MSIL/TrojanDownloader.Agent 2.0% ダウンローダー
8 HTML/Phishing 1.7% 詐欺を目的とした不正なHTMLファイル
9 HTML/Fraud 1.5% 詐欺サイトのリンクが埋め込まれたHTMLファイル
10 Win32/Exploit.CVE-2017-11882 1.3% 脆弱性を悪用するマルウェア

*2 本表にはPUAを含めていません。

7月と8月に国内で最も多く検出されたマルウェアは、JS/Adware.Agentでした。
JS/Adware.Agentは、悪意のある広告を表示させるアドウェアの汎用検出名です。Webサイト閲覧時に実行されます。

Webサーバーに対する侵害

2023年8月1日に、IPAより「【注意喚起】インターネット境界に設置された装置に対するサイバー攻撃について~ネットワーク貫通型攻撃に注意しましょう~*3という記事が公開されました。「企業や組織のネットワークとインターネットとの境界に設置されるセキュリティ製品の脆弱性が狙われ、ネットワーク貫通型攻撃としてAPT攻撃に利用されている」という趣旨の記事です。攻撃者によるネットワーク内部への侵入を許してしまった場合、バックドアの設置やWebサーバーの改ざんといった被害に遭ってしまいます。
また、サイバーセキュリティラボでは、独自にセキュリティインシデントの情報を収集しています。それによると、2023年7月・8月にも国内のWebサーバーに対する改ざん被害が複数発生しており、ユーザーのパスワードやクレジットカード情報が窃取されるインシデントも確認されています。

*3 【注意喚起】インターネット境界に設置された装置に対するサイバー攻撃について~ネットワーク貫通型攻撃に注意しましょう~ | IPA 独立行政法人情報処理推進機構

こうしたWebサーバーへの侵害は、Webサイトの画像やテキストの改ざんなど目に見える被害が発生するまで、なかなか気づくことができません。
こうした背景を踏まえ、今月のマルウェアレポートでは、Win32/Chopperを例にWebサーバーに対して設置されるバックドアの実例と対策について紹介します。

Win32/Chopperの概要

Win32/Chopperは攻撃対象のWebサーバーにあらかじめ設置されたバックドアに対し、さまざまな指令を与えるために使用されるマルウェアです。Win32/Chopperを使用することで、攻撃者はWebサーバーに対するファイルのアップロードやダウンロード、システムコマンドの実行を容易に行うことができます。これはつまり、バックドアの設置を許してしまった場合、攻撃者の任意のタイミングでWebページの改ざんや機密情報の閲覧が可能となってしまうことを意味します。
Win32/Chopperで悪用されるバックドアは、ASP/Webshell.DDなど複数の検出名で検出されます。与えられた文字列をプログラムのコードとして評価し実行するeval関数を用いて、Webサーバー側で任意のコードを実行させる非常にシンプルな仕組みとなっており、Webページ内に設置されたわずか1行のコードがバックドアとして機能します。
攻撃者がバックドアを通じてWebサーバーに指示を出す様子を以下に示します。

図:攻撃者がWebサーバーに指示を出す様子

攻撃者がWebサーバーに指示を出す様子

Win32/Chopperは2012年ごろから悪用が報告されており、2021年には大規模な攻撃キャンペーンで使用されたことが確認されています。*4

*4 China Chopper Webシェルを使用したMicrosoft Exchange Serverに対する攻撃の分析 | Palo Alt Networks

Win32/Chopperの動作

バックドアが設置されたWebサーバーに対し、Win32/Chopperがどのように指示を出すのかを解説します。 攻撃対象としてテスト用のIIS(Internet Information Services)サーバーを用意し、そのサーバー内にバックドアとして機能するaspxファイルを設置しました。ネットワーク内の別のパソコンでWin32/Chopperを実行し、テスト用のIISサーバーに対し指示を送ります。

Win32/Chopperを実行すると以下のような画面が表示されます。この画面から、設定された攻撃対象のWebサーバーを一覧で確認することができます。

図:Win32/Chopper実行時の画面

Win32/Chopper実行時の画面

Win32/Chopperの機能をいくつか確認します。
まず、ファイル操作を行う機能です。攻撃対象のWebサーバーを選択し、右クリックで表示されるメニューから「Files Management」を実行すると、以下のような画面が表示されます。

図:Webサーバーのファイル構造が表示された画面

Webサーバーのファイル構造が表示された画面

表示されているのは、Webサーバー内のフォルダーとファイルです。左側にフォルダー構造が表示され、右側に選択したフォルダー内のファイルが表示されています。Webサーバーの権限設定が正しく行われていない場合、以下に示す動作を攻撃者に許してしまう可能性があります。

  • インターネットに公開していないファイルの閲覧
  • ファイルの改ざん、アップロード、削除

次に、システムコマンドの実行を試します。Win32/Chopperでは、攻撃対象のWebサーバーを選択してターミナルを呼び出すことができます。

図:攻撃対象のWebサーバーからpingコマンドを実行する様子

攻撃対象のWebサーバーからpingコマンドを実行する様子

呼び出したWebサーバーのターミナルからpingコマンドを実行する様子を上の画像に示しました。Webサーバーが日本語環境で動作しているためか文字化けしていますが、pingコマンドは正しく実行されていることがわかります。
攻撃者による任意の外部サーバーへの接続など、システムコマンドが実行されることによって発生する可能性のある被害は多岐にわたります。

Win32/Chopperの特徴

Win32/ChopperはWebサーバーに対して操作を行う際に、POST通信を使用します。

図:バックドアが設置されたページにPOST通信が行われている様子

バックドアが設置されたページにPOST通信が行われている様子

上の画像は、Win32/Chopperを実行しているパソコン(192.168.236.120)からWebサーバー(192.168.236.100)に対して操作を行う様子をWireSharkで確認したものです。赤枠で示したように、バックドアが設置されたページに対してPOST通信が行われています。

図:Win32/Chopperが送るPOST通信

Win32/Chopperが送るPOST通信

Win32/Chopperが送るPOST通信の中身の一部を上に示しました。この通信では、Webサーバーでnetstatコマンドを実行させ、TCPコネクションの状態を表示させています。Webサーバーに対する命令はBase64形式でエンコードされており、内容を読むためにはデコードする必要があります。
POST通信はWin32/Chopperが操作を行うたびに発生するため、上記のようにBase64形式でエンコードされた不審なPOST通信がWebサーバーに対して複数回行われていた場合、バックドアの存在を疑う必要があります。

バックドアによる被害を受けないために

Win32/Chopperなどバックドアを利用するマルウェアによる被害を受けないために何より大切なことは、バックドアを設置させないことです。攻撃者はサーバーに侵入する際に、機器やソフトウェアの脆弱性を悪用したり、無害を装ったファイルを実行させたりします。ネットワークや各種ソフトウェア、機器のログをチェックし、異常を検知できる体制を整えてください。
また、既知のバックドアの多くは、セキュリティソフトによって検知されます。Webサーバーのセキュリティソフトは常に最新を保つようにしてください。仮にバックドアの設置を許してしまったとしても、被害が発生する前にバックドアを削除できる可能性があります。

これらの対策を実施しても、バックドアが設置されてしまうことがあります。そうした場合の被害を最小にするために、以下のような対策も必要です。

  • Webサーバー内のファイルに対するアクセス権限を正しく設定する
  • Webサーバー内のファイルが改ざんされていないか定期的にチェックする
  • 使用している機器、ソフトウェアの脆弱性情報を収集する

Webサーバー内のファイルに対するアクセスを制限することで、ファイルの改ざんを防ぎ、被害の範囲を抑えることができます。
また、バックドアの存在に早期に気づくために、定期的なファイルのチェックや使用している機器、ソフトウェアの脆弱性情報の収集を行ってください。例えば、今回紹介したWin32/ChopperはPOST通信が多数発生するという特徴があります。そうした個々の動作の特徴を把握することで、見逃してしまいがちな痕跡に気づくことができます。

まとめ

今月のマルウェアレポートでは、Webサーバーに設置されるバックドアの実例と対策について紹介しました。Webサーバーに対して設置されたバックドアの存在には、なかなか気づくことができません。セキュリティソフトなどで侵入を防いだ上で、万が一侵入されてしまった場合の対策も用意しておくことが大切です。本記事の対策の項も参考に、今一度Webサーバーのセキュリティについて見直してみてください。

常日頃からリスク軽減するための対策について

各記事でご案内しているようなリスク軽減の対策をご案内いたします。
下記の対策を実施してください。

1. セキュリティ製品の適切な利用
1-1. ESET製品の検出エンジン(ウイルス定義データベース)をアップデートする
ESET製品では、次々と発生する新たなマルウェアなどに対して逐次対応しております。
最新の脅威に対応できるよう、検出エンジン(ウイルス定義データベース)を最新の状態にアップデートしてください。
1-2.複数の層で守る
1つの対策に頼りすぎることなく、エンドポイントやゲートウェイなど複数の層で守ることが重要です。
2. 脆弱性への対応
2-1.セキュリティパッチを適用する
マルウェアの多くは、OSに含まれる「脆弱性」を利用してコンピューターに感染します。「Windows Update」などのOSのアップデートを行ってください。また、マルウェアの多くが狙う「脆弱性」は、Office製品、Adobe Readerなどのアプリケーションにも含まれています。各種アプリケーションのアップデートを行ってください。
2-2.脆弱性診断を活用する
より強固なセキュリティを実現するためにも、脆弱性診断製品やサービスを活用していきましょう。
3. セキュリティ教育と体制構築
3-1.脅威が存在することを知る
「セキュリティ上の最大のリスクは“人”だ」とも言われています。知らないことに対して備えることができる人は多くありませんが、知っていることには多くの人が「危険だ」と気づくことができます。
3-2.インシデント発生時の対応を明確化する
インシデント発生時の対応を明確化しておくことも、有効な対策です。何から対処すればいいのか、何を優先して守るのか、インシデント発生時の対応を明確にすることで、万が一の事態が発生した時にも、慌てずに対処することができます。
4. 情報収集と情報共有
4-1.情報収集
最新の脅威に対抗するためには、日々の情報収集が欠かせません。弊社をはじめ、各企業・団体から発信されるセキュリティに関する情報に目を向けましょう。
4-2.情報共有
同じ業種・業界の企業は、同じ攻撃者グループに狙われる可能性が高いと考えられます。同じ攻撃者グループの場合、同じマルウェアや戦略が使われる可能性が高いと考えられます。分野ごとのISAC(Information Sharing and Analysis Center)における情報共有は特に効果的です。

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