「ネット中立性」撤廃がもたらすもの

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インターネットにはこれまで「ネット中立性」という原則が貫かれており、利用者は誰でも平等に、その恩恵にあずかってきた。ところが2017年末に、この原則を撤廃するという動きが米国で起こった。その結果どういうことが懸念されるのか、特にセキュリティの面から考えてみる。

この記事は、ESETが運営するマルウェアやセキュリティに関する情報サイト「Welivesecurity」の記事を翻訳したものである。

「ネット中立性」撤廃がもたらすもの

米国連邦通信委員会(FCC)は、これまでインターネットで浸透してきた「ネット中立性」として知られる事項について、今後はとりやめる、という決定を下した(2017年12月14日)。当時はセキュリティ(業界)における影響について、各方面での問い合わせが殺到したが、セキュリティと一口に言っても、マルウェア対策からビデオ監視を含む家庭用警報システムに至るまで、インターネット接続を必要とするセキュリティにはさまざまな要素がある。

ESETのようなマルウェア対策ソフトは、オンラインとオフラインの両方の保護機能を持っており、機器がオンラインで用いられているならば、その安全性の維持のために、マルウェア情報のアップデートを受信するほか、ユーザー評価機能のためにURLやファイルをチェックしたり、クラウド内のファイルをスキャンしたり、その他のクラウドベースの技術を用いるなど、さまざまなことを行っている。マルウェアの拡散は瞬時に起こることが多いため、攻撃を検知・ブロックするためには常時リアルタイムでセキュリティのアップデートが求められる。

ネット中立性が保てないとなると、競合他社との差別化や支払い額に応じた優先順位の割り当てなどが行われ、その結果、アップデートの配布(ダウンロード)やクラウドベースで行うリアルタイムの保護といったセキュリティソフトの機能に遅延が発生してしまうおそれがある。

インターネットサービスプロバイダー(ISP)が、ウイルス対策を提供するセキュリティ企業に、トラフィックの優先度を上げるためには、これまでよりも支払いを多くしてほしい、と要請し、そうしなければ、ほかの全ての企業よりも優先度が下がると述べているのである。ウイルス対策企業が億単位のIoT機器を保護している場合、多くの機器とそのユーザーの重要なデータが危険にさらされる可能性が生まれることになる。

おそらく、これから起こり得ることをはっきりと理解するためには、ほかの類似例を示すのがより良い方法だろう。道路を例に挙げてみよう。これまでよく使われていた無料のハイウェイの隣に有料道路が新たに建設される場合、運転する立場としては、渋滞の少ない有料道路に切り替えたいところだ。しかしネット中立性が撤廃されると、スーパーカーのメーカーのみが有料道路を通る権利のために料金を支払うようなことが起こるので、スーパーカーのみが速く走れることになる。どの車を選ぶかは消費者が決めることができるが、スーパーカーは高価なので手に入れられないという制限がある。これにより、他のドライバーと同じように特定の道路を走ることができなくなるのである。

セキュリティベンダーは、アップデート時間の影響を受けやすいため、顧客の保護の重要性に鑑みれば、トラフィックの優先性を確保するために追加料金を支払うことを決定するかもしれない。しかしこれは間違いなく、サービスを利用する消費者や企業にコスト負担を求めることになる。例えば消費者に、セキュリティ関連のトラフィックなど特定の種類のトラフィックを優先して、より速く受信することを選択できる有料サービスが提供される、といったようにである。

もちろん、実際のところ多くのISPは、法律の変更にもかかわらず提供しているサービスに変化はなく、ネット中立性に基づいたサービスを提供すると公表している。

それでは、何が懸念されるのだろうか。ネット中立性という原則は、利益やその他の目的のためにトラフィック速度を操作しようとしているいかなる相手からもインターネットを保護していた。全てのトラフィックが等しく自由に扱われることが保証されること、これこそが守られるべきものである。

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