はじめに
2025年5月、和歌山県・白浜町で開催された「第29回サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム(以下、白浜シンポジウム)」に、サイバーセキュリティラボの小山と森の2名が参加しました。
本シンポジウムは、サイバー犯罪や情報セキュリティに関する最新の知見を共有し、産官学の垣根を超えた交流を促進する場として、国内を中心に高い注目を集めています。
私たちは、情報セキュリティに関する知見を深めるとともに、さまざまな業界のリアルな声を聞くことを目的に参加しました。両名とも今回が初めての出張・初参加だったため、期待と緊張の入り混じったスタートとなりました。
本記事では、現地で感じた白浜シンポジウムの魅力やこれから参加を検討している方へのアドバイスを紹介します。
サイバー犯罪に関する白浜シンポジウム
「白浜シンポジウム」は、サイバー犯罪や情報セキュリティに関する最新の知見を共有し、関係者同士の交流を深めることを目的としたイベントです。
毎年5月に和歌山県・白浜にて開催されており、2025年で第29回を迎えました。
今回のテーマは「アイデンティティを問い直す:匿名、なりすまし、ペルソナ、そして人ならざるもの」であり、講演やパネルディスカッションを通じて、多様な視点から議論が展開されました。
本シンポジウムは、産官学の垣根を越えた情報共有と、地域とともに築く「地域SECUNITY(セキュリティ・コミュニティ)」形成の場としても注目されています。
SECUNITYとは、地域の民間企業、行政機関、教育機関、関係団体などがセキュリティについて語り合い、「共助」の関係を築くコミュニティです。
普段接点のない分野の専門家同士が意見を交わすことで、今後の共同プロジェクトや情報共有につながるきっかけとなることも期待されています。
メインイベント
昼の部:講演・パネルディスカッション
昼の部では、和歌山県立情報交流センター Big・Uを主会場として、講演やパネルディスカッションに加えて企業展示などが行われました。展示ブースでは、デジタルフォレンジックツールやサイバーセキュリティ資格向けのトレーニング紹介が目立ちました。実際にツールのデモを体験できるブースもあり、参加者が製品の機能や活用方法について直接説明を受ける場面も見られました。
■主な講演テーマ
続いて、昼の部で特に注目を集めた講演テーマについて紹介します。
・法律関連の動向
2025年5月に成立した「能動的サイバー防御法」は、日本のサイバーセキュリティ政策を大きく転換するもので、政府が攻撃の予兆を察知し、攻撃元に先回りして対処できるようになりました。
特に注目されたのは、官民連携の強化、通信情報の収集枠組みの拡充、攻撃元への直接アクセスの容認、専門人材の育成とセキュリティクリアランス制度の導入です。
企業やインフラ事業者には、攻撃の兆候を早期に報告する義務が課されるなど、実務面での対応も求められるようになりました。法改正の詳細は、内閣官房 サイバー安全保障体制整備準備室「サイバー対処能力強化法及び同整備法について」を参照してください。
・認証情報の管理とその脆弱性
2025年に入ってから、証券口座を中心としたインターネット取引サービスに対する不正アクセスが相次いで報告されています。講演では、本人確認の精度や情報漏えいリスク、ユーザー利便性とのバランスについて議論が交わされました。特に、利便性を損なわずに認証の強度を高めるための制度的な整備や、業界全体での基準づくりの必要性が強調されました。
夜の部
夜の部では、「BOF(Birds of a Feather)」と呼ばれる関係者限定のミーティングが開催され、警察分野、ドメイン名管理、ASM(Attack Surface Management)、教育分野などをテーマに、さまざまな分野の専門家が意見を交換しました。
会場は、昼の公式な雰囲気とは一変し、リラックスした空間の中で、普段は聞けないような現場のリアルな声や、業界の裏話が飛び交います。まさに“ここでしか聞けない話”が詰まった学びの多い場になっています。
そんな中、偶然にも学生時代の恩師と再会するという嬉しい出来事がありました。久しぶりの対話では、学生時代の思い出話に花が咲き、教育現場の変化やAI技術の進展についてもざっくばらんに語り合いました。専門的な議論というよりも、日々の仕事や社会の変化について話す中で、初心を思い出すとともに改めて人とのつながりの大切さを実感しました。こうした予期せぬ再会も、白浜シンポジウムを含む外部イベントに参加することの魅力だと感じました。
白浜シンポジウムでは、夜の部こそが本当の醍醐味とも言われており、参加者同士が自然に打ち解け、深い対話が生まれる場でもあります。
初めての方でも自然と輪に入れる雰囲気があり、専門知識の有無に関わらず、誰もが学びとつながりを得られる時間です。白浜シンポジウムに参加される場合はぜひ夜の部にも参加することをおすすめします。
白浜の魅力
シンポジウムの内容に加えて、開催地の魅力も印象的でした。
開催地である白浜町は、美しい海岸線と日本三古湯のひとつ「白浜温泉」で知られる、和歌山県屈指の観光地です。温泉地ならではの開放感と癒しの環境は、滞在中の気分転換にもなり、旅の疲れを癒してくれました。
また、白浜は「パンダのまち」としても長年親しまれてきました。アドベンチャーワールドで飼育されていたジャイアントパンダ4頭(良浜、結浜、彩浜、楓浜)は、2025年6月に中国へ帰国することが決まっており、私たちが滞在していた期間中もその話題で盛り上がっていました。帰国を前に多くの来園者が訪れており、シンポジウム参加者の中には延泊して足を運ぶ人もいたようです。
私たちは残念ながら訪れることができませんでしたが、現地の雰囲気から、パンダが地域に与えていた影響の大きさを感じることができました。
白浜の自然や文化、そして人々の思いに触れることで、シンポジウムの合間にも心に残るひとときを過ごすことができました。
こんな人におすすめ
- サイバーセキュリティに関する交流を広げたい人
白浜シンポジウムでは、懇親会や夜のBOFを通じて分野を越えた交流が活発に行われています。著名な専門家と直接意見を交わせる貴重な機会もあり、参加者は多様な業界の現場の声に触れながら、交流の輪を広げることができます。 - 最新のサイバー犯罪動向を学びたい人
最新のサイバー犯罪に関する法制度や攻撃手法について、専門家による講演やBOFを通じて学べます。実際の事例や政策の背景も紹介されるため、セキュリティの理解を深めたい人や、日々の業務や研究に活かしたい人におすすめです。 - サイバーセキュリティに関心がある学生
講演や展示を通じて、サイバーセキュリティに関する最新動向や実際の取り組みに触れることができ、学びの幅を広げる貴重な機会になるかと思います。将来の進路やキャリアを考えるうえで、現場の空気を感じながら理解を深められる貴重な場です。
何より、白浜シンポジウムには学割があるので非常にお得に参加することができます。
白浜シンポジウム参加前に知っておきたいこと
ここからは、今後白浜シンポジウムに参加を決めた方に向けて、事前に知っておくと安心なポイントを4つ紹介します。
チケット争奪戦
白浜シンポジウムに限らず人気のあるシンポジウムの場合、チケットが即座に完売することがあります。販売開始日は必ず確認しておき、早めに確保しておくと安心です。今回の白浜シンポジウムでは、約1分でチケットが完売するほどの人気ぶりでした。
また、昼食のランチチケットや懇親会のチケットもあわせて購入することをおすすめします。会場内・会場周辺で昼食を確保できる場所は限られているため、事前にチケットを確保しておくことで落ち着いて過ごすことができます。
宿泊先の選定と事前予約
宿泊先は、夜の部の会場(例年はホテルシーモア)に近い宿泊施設を選ぶと、移動が楽になります。人気のあるイベントのため、周辺のホテルはすぐに満室になる傾向があります。希望の宿がある場合は、できるだけ早めの予約をおすすめします。
交通手段の確保
空港や白浜駅からは、シンポジウムが用意するシャトルバスが運行されますが、本数や時間に限りがあります。公共交通機関での移動が難しいため、シャトルバスの時刻表を事前に確認しておくと安心です。タクシーを利用する場合は、事前に予約をしておけば、当日スムーズに行動できます。
交流のための準備
白浜シンポジウムは交流を重視しているシンポジウムですので、名刺を多めに準備しておくことをおすすめします。懇親会や名刺交換会など名刺を交換する機会が多くあるため、事前に準備しておくと良いでしょう。
おわりに
今回、初めて白浜シンポジウムに参加し、サイバー犯罪や情報セキュリティに関する最新の知見に触れるとともに、分野を越えた意見交換を通じて、現場の具体的な課題や取り組みに触れる貴重な機会となりました。
昼の部では法制度や技術に関する深い議論が展開され、夜の部では業界の垣根を越えた率直な対話が行われるなど、白浜シンポジウムならではの濃密な時間を体験することができました。
特に、産官学の連携によって生まれる多様な視点や協力の可能性に大きな刺激を受けました。異なる立場の専門家との対話を通じて、今後の共同研究や情報共有の重要性を再認識するとともに、セキュリティ課題に対する理解を深め、今後の取り組みに活かせるヒントを得ることができました。
今回得た学びをもとに、社内外での情報共有や啓発活動をより充実させていきたいと考えています。「共助」の精神を大切にしながら、関係者とのつながりを活かしたセキュリティの取り組みを広げていくことを目指します。
本レポートが、これから参加を検討されている方の事前の情報収集や参加を考えている方の判断材料になれば幸いです。