テレワークの導入にあたり課題として挙がるのが「セキュリティ対策」。サイバーセキュリティ情報局では「テレワークとセキュリティ」をテーマに前々回、前回と記事をお届けしてきた。最終回となる今回は、キヤノンマーケティングジャパングループのキヤノンITソリューションズ株式会社が提供するテレワーク支援サービス「テレワークサポーター」にフォーカスをあてる。開発経緯や特徴、機能などについて、同社ITサービス事業部の松野 一、加瀬 弘充の二名に話を聞いた。
東京オリンピックの開催で通勤困難が予想される企業も
東京オリンピック開催となる2020年夏まで残すところおよそ1年半。新国立競技場も完成間近など、着実に開催へ向けた準備は進みつつある。オリンピックに関連する施設が数多く立ち並ぶことになる東京中心部では、開催時期に相当な混雑が見込まれている。中でもオリンピックの選手村ができる勝どき近辺の企業では開催期間中は通勤自体が困難な可能性も予測されており、このままだと業務が停滞しかねない。その対策としてテレワーク導入を急ピッチで進めている企業も少なくないという。
ITサービス営業部 Nプロジェクト 担当課長 松野 一
「テレワーク導入を推進している企業の背景はさまざまですが、東京オリンピックの開催は強い動機の一つとなっています。全国的に見ても都内に所在をおく企業の導入意思は他の地域よりも積極的に感じます。また、酷暑などの影響で、従業員の通勤時の負担に目が向いたこともあるかと思います。政府が推進する『働き方改革』が根底にありますが、それ以上に実情を踏まえて強い危機感を持っているようです。」と松野は語気を強める。
近年、夏だけでなく冬も大雪など異常気象に見舞われるケースが少なくない。大雪で交通マヒが生じても会社へ向かう。あるいは、うだるような暑さの中、電車を乗り継ぎ、会社に到着した時には体力が消耗してしまって、もう仕事どころではなくなっている。こんな笑えない話は枚挙に暇がないだろう。そうした通勤事情を非効率とみなし、テレワーク導入に舵を切る企業も増えている。
働き方改革の最前線で感じる、テレワーク導入への温度感の違い
新規事業創出ミッションとして立ち上がった「Nプロジェクト」、その中で松野が所属するこのチームではテレワークだけでなく、働き方をシステムの力でフォローアップすべく、企業の人事・総務などの担当者と議論を重ねている。まさに働き方改革の最前線にいるわけだが、企業によって取り組みの進度が異なることに問題意識を抱えているという。
中でも特に顕著なのが先の発言でも上がった地域による違いだ。同じ都市圏でも東京と大阪では事情が全く異なる。そして関東圏でも東京の中心部とそれ以外でも異なっているとのことだ。まさに東京の中心部という限定された地域だけが取り組んでいるような印象を受けるが、状況は少しずつ変わりつつあるようだ。
その背景には採用難などを理由に多様な働き方を取り入れざるをえないという切迫した事情がある。これまでは介護・育児などプライベートの事情は考慮されず、離職せざるをえなかった社員も少なくない。働く意思があっても会社に定期的に通勤するのが難しい。それだけの理由で離職を余儀なくされていた人材にとって、テレワークはまさに一筋の光明というわけだ。
実際、テレワーク主体での勤務形態で募集をかけて採用を成功させ、業務も順調に回っている企業もあるという。その企業では評価制度もテレワークに合わせて構築し、適切な評価をすることで社員のモチベーションもしっかりと掴むことができているとのことだ。以下ではその事例*1を見ることができる。ぜひ参考にしてみてほしい。
*1 ITのチカラ [Vol.5] テレワークサポーター ケーススタディ(C-magazine)
https://cweb.canon.jp/cmag/it/vol84/casestudy.html
変化できる企業がテレワーク導入に成功している
これまで多くの企業のテレワーク導入に携わってきた松野だが、導入に成功している企業にはふたつの共通点があるという。ひとつはトップダウンで取り組みを進めていることだ。その理由について以下のように説明する。
「日本企業の慣習からするとボトムアップでは意見の提言にとどまってしまうことが多い。それでは管理職を動かすことができません。テレワークはこれまでの働き方と変わるため、管理する側の意識改革が必要です。管理職を動かすことができるのはやはり経営層ということになります。」(松野)
もうひとつのポイントについても松野は続ける。
「まずトライアルから始めるということです。最初から本導入という場合、初期コストに見合った効果を見込めるかが不明瞭と判断され、見送りになるケースもあります。テレワークは企業の文化によって導入後の効果が大きく異なります。そのためにも小さくでも始めてみることが有効です。そしてトライアルは管理職から始めること。管理する側が使ってみないとそのメリットを実感できないからです。」
国土交通省が実施したアンケート*2によると、雇用型テレワーカーの割合について、管理職が約33%と一番多くなっていることがわかる。一方で、一部の管理職がかたくなに拒んで前に進まないというケースもあるという。そのような場合はトップ主体でリーダーシップを発揮するしかない。時代が大きく変わりつつある中、生き残れるのは変化できる種だけ。それは生命だろうと企業だろうと変わりないことは歴史が教えてくれている。
*2 平成29年度 テレワーク人口実態調査 -調査結果の概要-(P13)
http://www.mlit.go.jp/common/001267251.pdf
オフィス内外でセキュリティ対策は大きく異なる
今後、テレワークの実証実験に入る予定という企業も少なくないだろう。その場合、セキュリティについては特に対策が求められる部分となる。その理由について加瀬はこう述べる。
「オフィスとオフィス外でのセキュリティ対策は根本的に異なると考えるべきです。オフィスには原則、知らない他人はいませんが、外だと周囲は知らない他人しかいません。他人からパソコンの画面をのぞかれたり、操作される可能性があることを前提とした対策が必要です。テレワークサポーターにはこうした事態に対応するためにのぞき見防止機能などを有しています。こうした機能を備えていることで、社員に対して適切な環境でテレワークを実施する、といった意識づけにもなりますし、万が一の情報漏えい時の状況確認にも活用できます。」
コンプライアンス遵守が求められる昨今、情報漏えいは企業にとって致命傷になりかねない。だからこそ、情報漏えいを予防するための機能はテレワーク導入にあたって必須といえる。テレワーク支援サービス「テレワークサポーター」は勤務状況の可視化と情報漏えい対策の機能を豊富に備えている。しかし、その機能の多くは後から加えられたものだという
「数年前の開発当初はテレワーク向けに特化したものではなく、ある企業向けに社員の勤務実態を把握する機能を開発するところが原点です。当社のR&Dチームがキヤノン株式会社の画像処理技術を活用し、顔認識をするだけのものでした。その機能をベースにお客さまからの意見を取り入れて製品化のコンセプトが固まっていきました。」(加瀬)
ユニークな開発例として加瀬は次のエピソードを挙げる。
「あるお客さまから『勤務開始ボタン』を設けてほしいという要望を頂きました。私たちとしてはログインしているからボタンは意味ないだろうと考えていましたが、実際に実装して検証したところ、利用している方々から好評でした。ボタンをクリックすることで勤務開始/終了のON/OFFが切り替わるため、気持ちも入れ替えやすいとのことです。」
こうしたインターフェイスの工夫などもあり、テレワークサポーターを活用したテレワークのほうが業務効率が高いという声も上がっている。また、導入前は不安視された管理・評価も、プロセスが可視化されることでオフィスにいる時以上に評価がしやすいという声も頂いているという。このあたりはトライアルしてみて始めてわかるところだろう。
API連携で勤務ログの取得も可能に
今後もテレワークサポーターは新たな機能追加を順次予定している。直近でリリースした新機能について加瀬が説明する。
ITサービス営業部 Nプロジェクト プロフェッショナルITスペシャリスト 加瀬 弘充
「これまではテレワークサポーターで取得したデータを他のシステムと連携するにはCSVファイルを経由して実現していました。今回の機能追加でAPIによる連携が可能となり、お客さまが利用されている勤務管理システムなどとの連携が、簡単でスピーディに構築可能になります。2019年4月に予定されている働き方改革関連法案の施行により、企業は社員の労働状況をこれまで以上に厳格に把握することが求められます。すなわち、エビデンスとして勤怠ログを収集・保管することがリスクヘッジとして必要となるのです。API連携により、こうした対応が可能となります。」
API連携以外でも、顔認識機能の精度向上や、お客さまから頂いているリクエストなどへの対応も検討中とのこと。今後もテレワークをサポートするツールとして、さらなる進化が期待されるだろう。
話を聞いた方:
キヤノンITソリューションズ株式会社 ITサービス事業部 ITサービス営業本部 ITサービス営業部 Nプロジェクト 担当課長 松野 一(左)
キヤノンITソリューションズ株式会社 ITサービス事業部 ITサービス営業本部 ITサービス営業部 Nプロジェクト プロフェッショナルITスペシャリスト 加瀬 弘充(右)